単独航空機の事故としては史上最悪の悲劇となってしまったJAL123便の墜落事故から20年。この事故については調べれば調べるほど事故調の発表や事故発生時の自衛隊の行動などに疑問符が浮かび、事故原因とされている急減圧についても疑念が拭えないのだが、それゆえそうした疑問点の検証もそこそこに自衛隊撃墜説やら陰謀説やらに一気に飛躍してしまう、いわゆるトンデモ本に分類されてしまうような書籍も実に数多い。
当時この事故の取材に携わり、事故発覚直後の現場にも赴いた筆者によって書かれた本書は、書き出しにおいて「率直にいって事故調の報告書は矛盾だらけで誤った推定をしている部分が多すぎる。が、私たちも「これが事故の原因です」「真相です」と断定できる材料は持ち合わせていない」と記されている通り、現在までに示されている事実と、それに基づいた疑問点を詳細かつ丁寧に整理・提示するスタンスを貫いており、そこから自説の推論を膨らませるということにはほとんど力点が置かれていない。取材当時に見聞きした事実を出来るだけ冷静かつ詳細に記述することに気が配られているので、そのぶん字数が膨らみボリュームがあるが、この事故における時系列的な事実とそこから生じる疑問点を整理し確認するという意味では集大成的で、力の入った良い一冊だと思う。
唯一、自衛隊の墜落現場の特定と救出作業開始の遅れに関する部分だけは、筆者なりに推論を行っているが、相応の字数を費やしてかなり丁寧にやっている。これまでそれなりの書籍やサイトにいろいろあたってきたが、この部分に関しては改めて考えさせられ、興味深かった。
本書には付録DVDとして、ボイスレコーダーの音声にCGを使った解説を付けたものが添付されている。このボイスレコーダーの音声を聴くのは初めてではないが、やはり何度聴いても辛く、いたたまれない気持ちになってしまう。トンデモ本の類が唱える説を支持するわけではないが、とはいえこの事故に関して未だ隠蔽された事実というものがあって、それを知っている人間もいるはずだという疑念はやはり拭えない。再調査を頑として拒否し、情報公開法施行直前にこの事故の資料を廃棄した事故調に対しても不信感が強まる。事実がこのまま永遠に闇に葬られてしまうのは、果たして許されることだろうか。ボイスレコーダーの音声を聴くといつもそんなことを考えてしまう。
※2005.8.5の文章を再録